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僕が農業をやる理由



かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい街づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。なかなか触れる機会がない生産者さんのストーリーを、伝えていくのがこの企画です。


今回取材をお願いしたのは、角田市小田地区のお米農家の佐藤裕貴さん(以下、裕貴さん)です。お米農家である裕貴さんは、ご自身をお米クリエイターとしてブランディングされています。今回の取材では、お米クリエイターとして、お米の販売や加工品の販売、数々のイベントを通じて、角田から農業の魅力を発信し続けている裕貴さんの原点や、農業に対する想いについて伺いました。



インタビュア:舟山直道(以下、舟)

インタビュイ:佐藤裕貴(以下、裕)




お米クリエイターとは
お米クリエイターの佐藤裕貴さん

舟)本日はよろしくお願いいたします。裕貴さんといえば、お米クリエイターとしてブランディングされていますよね。お米クリエイターとはどういったお仕事なのですか?


裕)農家である事には変わりないんですが、農家の佐藤です。というと、どこにでもある佐藤で、どこにでもいる農家だと感じました。これではインパクトがないなと思いまして。


舟)確かに佐藤さんという苗字は、全国的でも一番多いですよね。


裕)お米マイスター(※1)という制度がありまして、五つ星を取っている佐藤裕貴ですという形で発信していくのも良いかなと考えてみたのですが、五つ星のマイスターになるには最低5年掛かるんです。


舟)5年も掛かるんですね。


裕)2011年の東日本大震災後、角田市でこういうお米を作っている人がいる、角田には僕がいるという事をいち早く世間に向けて発信していきたいという想いがありました。また、誰かが付けた名前ではなく、オンリーワンの名前が欲しくて、google等で色々と調べましたんです。その時に、クリエイターという名前に惹かれて、お米と併せて、シンプルに”お米クリエイター”としてブランディングしていこうと決めたんです。


舟)そのような経緯があり、お米クリエイターとしてブランディングしていこうとなったんですね。裕貴さんが農業に携わるようになったのは、東京から角田市にUターンしてからとお聞きました。


裕)2009年12月に東京から角田に帰ってきたのですが、翌年の3月に地元の小田小学校が閉校になってしまったんです。この地域に子供が少ない事と、地域が衰退しているのを肌で感じました。何で俺がいない間に、生まれ育った地区がこんなに盛り下がってしまってしまったかと。


舟)生まれ育った地元が、そのような状況になっていたんですね。


裕)残念な気持ちと、悔しい気持ちを感じながら、自宅のお米を何となく売り歩いたというか、配ってみたんですよね。すると、お客様からの反応が結構良かったんです。あれっ、そもそも米農家が頑張っていないだけなんじゃない?って思いました。当時はまだ農業を本業にしていなかった時期でしたが、お客様に色々な提案をしていく中で、角田市からお米の魅力を発信する可能性はまだまだあるなと実感していました。しかし、そんな時に東日本大震災が起きてしまいました。なんだよーという感情ですよね。でも、そこでもっと火がつきました。


(※1)お米マイスターとは、日本米穀小売商業組合連合会が主宰する、お米に関する専門職経験がある人のみに受験資格があるお米に関する資格の事。




僕は普通のお米農家
農業に携わるきっかけとなったエピソードを話す佐藤裕貴さん

舟)裕貴さんが本格的に農業に携わるようになったきっかけとして、2011年の東日本大震災の出来事も関係しているんですね。


裕)そうです。当時、近所のスーパーマーケットには長い列ができていてました。並んでいた人に、何買うんですか?と聞いたら、とりあえず置いてある食べ物を買おうと思っているんですと言われました。その時、第一次産業というものは、人が生きていく上で最優先事項になっているんだなと思いました。農業の凄さと必然性を感じ、ただ単に農業を発信していくのではなく、より深く、クリエイティブに発信していく存在になりたいと思いました。


舟)震災当時は、スーパー、コンビニなど、どこに行っても食べ物を買うのが大変でした。そのような想いから、自分の田んぼを活用して、おしゃれなイベントを実施したりと、農業の魅力や面白さを世の中に発信しているんですね。


裕)ムーブメントを巻き起こそうと思ってやっているのではなく、何か面白そうだなと思った事を本気でやっています。実際、僕は汚れるのが嫌いで、農業をするつもりはなかったんです。でも、こんな僕が泥だらけになってやる農業なんだから、みんなに喜んでもらい、かつ、自分も楽しまないと悔しいんですよね。


舟)みんなに楽しんでもらう、やっている自分も楽しむというのは重要ですよね。


裕)別に僕に何ができるかというと、できない事の方が多いので、その中で振り絞って、自分だったらこうできるというポイントを付いて実施しています。僕が農業をやる意味は、誰でもできるようであれば、僕がやる意味はないなと思いますし。


舟)何でもそうですが、やる意味、理由というのは大切な事ですね。


裕)先ほどお米クリエイターのお話をしましたが、別に凄いことをやっているという訳ではないんですね。普通のお米農家なんです(笑)でも、そんな農家が増えてきたら、日本の農業が盛り上がるのではないかなと思ってやっています。風当りがちょっと強いですが、自分が面白いと思う農業をしていきたいという覚悟の想いもあります。ただ、40歳を過ぎると、お米クリエイターという名前は少し恥ずかしくなりますよね(笑)




世の中を店舗に見立てる
自宅の一室には、アンティークグッズが並ぶ

舟)裕貴さんといえば、お家の中に色々なアンティークグッズが並んでいますが、雑貨屋から農家に転身されたんですよね。雑貨屋時代の経験は農業にも活かされていますか?


裕)そうですね。お米の品種の多さの部分でしょうか。


舟)というのは、具体的にどのような部分ですか?


裕)角田にUターンしてきた当時は、栽培しているお米の品種が3種類~4種類でした。例えば、こちらのお米は美味しいから食べて下さいとお客様に勧めても、もちもち過ぎて好きではないんです。と言われてしまうと、そうですか、分かりました。で終わってしまうじゃないですか。でも、お店の場合はそれではいけない訳です。売上を上げないと行けないんです。


舟)そうですよね。


裕)そうならないためには、お米の品種を増やすという事と、お客様に試食していただくのが一番早いと思い、2合パックを作りました。品種を増やすことにより、例えば、ひとめぼれいかがですか?実はこっちにも他のお米があるんですよ、どっちがいいですかと聞くと、じゃあこれという風に選んで買ってもらえるという導線を作る事ができますよね。これが小売業の基本じゃないですけども、世の中を店舗と見立てて、人の気持ちをくすぐる仕組みを考えて販売するやり方は、雑貨屋時代の経験が活きていると思います。


舟)裕貴さんは色々な品種のお米を栽培しているなと思っていたのですが、そうした理由があったんですね。生産して終わりではなく、売り方も大事ですよね。


裕)お客様の購買意欲を上げるためには、お米クリエイターというブランド名であったり、お米をディスプレイする空間も大事です。ここで買いたい、この人から買いたいという部分です。あまり僕は、営業とかはしていません。最終的にはお客様が選ぶことだと思っています。どういうスタイル、想いで農業をしているのかという事が一番心掛けている事ですね。また、お米は口に入れるものですから、きれいに管理すること、整理することを徹底しています。


舟)お客様の立場となったとき、その部分はとても大事だと思います。


裕)お米はただきれいなパッケージで販売すれば、それなりに美味しそうなお米に見えたりするんですけども、そういう上辺だけでなく、裏の方まで、奥の方まで見て欲しいという気持ちを込めて仕事をしています、自分の中では仕事に厳しいです。意外と真面目なんです。




みんなが幸せになれる仕組みづくり
角田市の特徴であるお米と宇宙を合わせた「夢☆宇宙米」

舟)裕貴さんはこれまでお聞きしたお米の販売以外にも、日本酒の製造や味噌の製造など、お米を活かして様々なチャレンジを行っていますよね。最近は「夢☆宇宙米プロジェクト」の一員として、角田市の特徴であるお米と宇宙を合わせたブランディングを行っていますが、こちらのプロジェクトの目的は何でしょうか?


裕)きっかけは、道の駅かくだのオープンに合わせて、角田の特産品を作りたいという所から始まりました。メンバーは私含めて3人いるのですが、角田らしいといったら、宇宙食を作ろうかという話になり、それだったら、宇宙に打ち上げてしまおうという話になり、実際に種もみを打ち上げたんです!1kg打ち上げると約1億円掛かるという事だったので、100gにしました。1000万円ですね。


舟)1,000万円も!打ち上げるのもなかなか大変だったんですよね。


裕)そうなんですよ。半年ぐらい遅れました。種もみが戻ってくるのも、6月の半ばになってしまいまして。でも、こんなに不具合がある中で実ったお米の方が喜びも大きいですし、7月に田植えする人はほとんどいないので、誰もできない事だからやるという意味では、このリスク、ラッキーと思いました。ほんと、振り返ったら崖っぷちなんですけどね(笑)


舟)そうですよね。私だったら、毎日ドキドキして寝れないかもしれせん(笑)ピンチをチャンスにと言いますか、逆転の発想ですよね。他にも、このプロジェクトには色々な想いが詰まっているんですよね。


裕)ただ単にブランド米を作ると、売れれば終わってしまいます。そうではなく、宇宙米プロジェクトは購入してくれた方も幸せになれるような仕組みも含めています。まずは地域の農家さんから高くお米を買うことですね。現在、第一次産業は衰退してしまっているので、農家さんの収入を確保して、未来が見える経営を成り立たせるというのが農家の支援です。


舟)震災の時のエピソードでも第一次産業のお話が出来ましたが、とても大事なことだと思います。


裕)また、お米を販売して得た利益の一部は、地元の子供たちの学習支援でしたり、小学校が老朽化して修繕できない部分に寄付をさせていただいています。子供も大人も、皆が夢を見れるような、お金の動き、お米の動きをしたいという想いも、このプロジェクトに込めてやっています。


舟)田植えや稲刈りイベントの際には、大人も子供も、みんなでワイワイ楽しんでいる光景が見られましたよね。子供達が大人になったときに、そうした経験が活きてくると思います。


裕)このプロジェクトは、角田のどの農家も関われて、誰もが支援出来て、宇宙米を購入すると、自分たちの子供も孫も、みんなが幸せになるような仕組みを作りたいという想いがあります。かつ、宇宙米は非常食にも活用できますので、悪いことなしですよね。これで利益を上げましょうというプロジェクトではないので、未来を見据えた投資でしかないです。世の中に何か軌跡を残すじゃないですけども、次世代の農業者へのバトンみたいな感じでも捉えています。仕組みを残し、継続していくことで、農家も安定して営農できるなど、皆が喜んで応援できる仕組みを残していきたいですね。




農業を次世代に
今後の夢について語る佐藤裕貴さん

舟)最後になりますが、裕貴さんの今後の夢について教えてください。


裕)農業は凄い大変なんですよ。挫けることもありますけども、夢を見れる農業というか、未来を描く事ができる農業を伝えていきたいですね。僕が農業をやることによって、みんなが喜んでもらえるように楽しい事を企てたいですし、次世代に残していきたいです。


舟)先ほどの夢☆宇宙米のプロジェクトのお話でもありましたが、次世代の農業者へのバトンの部分ですね。


裕)第一次産業の話になりますが、種と畑があれば、作物が育つんですよね。例えば、大災害があって、地震と津波で土地が真っさらになってしまいました。でも、ズボンのポケットに100gの種だけ残っていました。その種を畑に蒔けば、作物ができるんです。


舟)確かにその通りですね。


裕)普段みんなが口にしている食べ物は、自分で育てる事ができるんだよという事も田植え体験等のイベントを通じて、子供達に伝えたい事ですね。機械がなくても、種と水と空気、土さえあればできますよという事を。まさに食の原点ですよね。あとは、一人では限界があるので、やはり仲間が欲しいという気持ちもあります。今はお米に集中しようと思いますが、本当は色々な事業を展開していきたいという想いがあります。


舟)農家不足が叫ばれている世の中において、農業、食の原点を発信していく事はとても大事な事だと思います。


裕)今は災害が多い世の中です。当たり前というのが最近難しいのですよね。まずは家族と顔を合わせて、当たり前にごはんを食べれるのが理想です。当たり前の生活が出来て、当たり前の幸せがあり、未来を描く事ができる農業を伝えていきたいなと思います。いつ死んでもいいような状態で、農業の形を未来に残していきたいなと思います。


舟)本日は長時間ありがとうございました!今まで、お米クリエイターとして活動している裕貴さんの姿を、外の情報でしか知らなかったため、内面の想いの部分まで知ることができ、とても貴重なお時間でした。私も、未来に何を残せるのかという部分を大事にして、日々の仕事に取り組んでいきたいと思います。






<後記>


今回、お米クリエイターの佐藤裕貴さんにお話を伺いました。裕貴さんの活動は、TVニュースやWebメディア等を通じて以前から拝見していたのですが、今回の取材のようにじっくりお話を聞くのは初めてでした。裕貴さんはおしゃれな服装が印象的な方で、農場のそばにはフォルクスワーゲンが止まっているんです。近くを車で通る方は、気になっていた方も多いのではないでしょうか。


取材では、裕貴さんがお米クリエイターとしてブランディングするようになった理由や、角田で農業をするきっかけになったお話を中心に伺いました。取材後には、今後はお店もやりたいんですよね。と話していた裕貴さん。若い世代が集まって、何か企てられるお店にして、「自分だったら、学生の頃にこういうお店があったらワクワクするとか、そうした場所を学生に与えたいと思っているんですよね。」と、常に新しいこと、面白い事を考えて裕貴さんでした。次はどのような事に挑戦していくのか、今後も楽しみです。


最後に、今年度も様々な生産者さんにお話を伺ってきましたが、面白いと思ったことがあります。それは、同じ品種のお米を生産していても、生産者さんそれぞれの考え方があったり、やり方が異なったりと、常にクリエイティブな思考で農産物を栽培している姿勢です。お米という一つの生産物を作るにしても、土、天気、肥料、作業スケジュール等、常に頭にアンテナを張って仕事をこなしているのです。


でも、考え方はそれぞれ違うかもしれませんが、皆さん共通して想っていた事がありました。それは、生まれ育った土地や地域の未来を考えて行動している事です。栽培している生産物や方法は違いますが、それぞれの想いは一緒でした。地方は少子高齢化、人口減少等のマイナスイメージがありますが、この力がうまく一緒に合わされば、とても強い力になるのではないかと取材を通じて感じました。今年度、取材にご協力いただきました生産者の皆様、お読みいただいた皆様、誠にありがとうございました!



Writer profile

舟山 直道。veeell Inc.マネージャー。

野球とバスケ好きな小ネタ王子。推しメンは角田市出身の楽天イーグルス熊原 健人選手。

写真が趣味で、スポーツ写真や風景写真を撮影してSNSに投稿!写真を日々勉強中。


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