• sprout

大きな農業へ



かくだ創業スプラウトは平成30年度より「食の創業支援」を実施し、「食」に関する創業がしやすい街づくりに取り組んでいます。角田市には豊かな食材があり、個性的で素晴らしい多くの生産者さんが角田の「食」を支えています。素晴らしい生産者さんたちの魅力を皆様に伝えたい!この記事を見た方達が、この生産者の食材を食べたい!使いたい!と思うキッカケにしたい。なかなか触れる機会がない生産者さんのストーリーを、伝えていくのがこの企画です。


今回取材をお願いしたのは、角田市西根地区の農業生産法人角田健土農場(以下、健土農場)の代表取締役の小野良憲さんです。健土農場は、平成7年に設立された農業生産法人です。お米をメインに、約110haの農地を管理する規模拡大型農業を実践している会社です。今回の取材では、健土農場の設立のきっかけや、特徴である土づくり、大規模農業の特徴について伺いました。なぜ、角田市で一足早く農業生産法人を設立したのか。そこには、理にかなった明確なロードマップがありました。




インタビュア:舟山直道(以下、舟)

インタビュイ:小野良憲(以下、小)


農業生産法人設立のきっかけ
角田市西根地区ある角田健土農場

舟)本日はよろしくお願いします。 健土農場は平成7年に農業生産法人を設立されました。

この時代といえば、個人農家の割合の方が多かった時代だと思います。いち早く農業生産法人を設立した理由は何だったのですか?


小)当時、先代の父が感じていた事は、これから農地の集積が始まってくるという事でした。要は、離農していく方が多くなるという事です。父が一番求めていた事は、自分の生まれた土地を守っていきたいという想いでした。


舟)そのような想いが原点だったんですね。


小)最初は父も個人農家でしたが、個人農家の場合、どうしても一人でできる規模には限界があります。可能なのは20~30ヘクタールまでです。自分が納得いく作物を育てられるのは、そこが限界だと感じたそうです。


舟)そうなんですね。


小)これからは組織の時代だと感じた父は、事業で軸になるものが欲しいと考えていました。その時に、微生物を研究している先生に出会いました。その先生が出している本の中に、土は命だという言葉があります。土の中には植物が必要とする成分が十分に携わっているんです。


舟)具体的にはどのような成分なんですか?


小)例えば、山の場合、肥料を入れなくても木は育つじゃないですか。それは、落ち葉などが腐ってできた腐葉土があるからなんです。何もしなくても育つのが山の腐葉土です。その部分に着目し、人の手を掛けて、腐葉土を生成できないかと考えました。


舟)土づくりの原点は腐葉土だったんですね。


小)父は、腐葉土がどのようにできていくかという段階を勉強して、どのように発酵していけばよいのかを研究しました。実は、天候に左右されて成長が良かったり、悪かったりするのは、作物だけなんですよね。自然の植物たちは、腐葉土にミネラルが含まれるため影響がありません。ミネラル分が豊富な堆肥を生成して、土を作ってあげれば、自然界と同じ土壌になるという原点を求めて、土づくりを行っていったのです。


舟)この時代にはまだ浸透していない農法ですよね。


小)その結果、平成5年に起きた大冷害の年でも、周囲は2俵(約120kg~180kg)しか収穫できなかったにも関わらず、堆肥を投入した田んぼでは、平均で約400kgを収穫する事ができました。


舟)平成の米騒動(※1)と言われた大冷害の時でも影響がなかったとは凄いですね!


小)なぜなのかと考えると、冷害に負けない作物を育てられる土を作っていたからですよね。当時の農法というと、化学肥料の農法が一般的でした。それでも、父は時代に逆行して自然農法を進めていたのです。その農法に感銘を受けた先代と、役員の計4名で、堆肥を基礎とした農業方法を行う法人を設立しました。


舟)やはり農業は土づくりが大切なんですね。


小)農業を生業としてやってきた4人としては、経営というのは継承なんですよね。次の世代に繋がないといけないんです。当時、離農が増えていく状況の中で、果たして息子たちが農業をするのかという心配もあったと思うんですよね。でも、息子たちじゃなくても、自分たちの技術を次の世代に継承できればいいわけです。自分たちの考え方に賛同していただける次の世代の人であれば、技術を継承していきたいという気持ちもあったと思います。そこまで考えた上での農業生産法人の設立ではないかと推測します。


※1「平成の米騒動」とは、日照不足と長雨による影響で米が不作となり、米の需要量に対して、収穫量が下回る事態になった出来事。




農業は見て覚えろ
代表取締役の小野良憲さん

舟)小野さんは稲作を始めて10年目とお聞きました。今までどのような事を実践してきたのですか?


小)昔の農家さんは皆、見て覚えろといいます。でも、見て覚えろられるかと思いました。


舟)そうですよね。


小)この世代の人たちは教えるのが苦手なんですよ。だから次の世代が育たなかったとうのもあるのかなと思います。技術的には凄いものを持っているのですが、伝える部分の技術が少し下手だったのかなと。


舟)そのような環境の中で、どのようにして技術を習得してきたのですか?


小)まずは失敗した事と成功した事を聞きました。そうして技術を習得していきました。失敗した事をやらなければ、火傷はしないので。でも、大概は教えてもらえないので、自分で実験して学んでいきましたね。


舟)賢いやり方ですね。


小)加えて、農協に行って、同じ作物を育てている仲間に技術を教えてもらいました。最初は失敗しましたが、3年目ぐらいに軌道に乗りました。4年目~5年目ぐらいになると、部会の中でも売上が一番になり、消費者が求めているものを栽培できるまで成長しました。


舟)凄いですね!


小)でも、徐々にロットが必要になってきたのです。その時、個人農家の限界を感じました。父がどうして会社を設立した理由がその時分かりました。そのため、法人の道へ進む事にしました。


舟)そうしたエピソードがあったんですね。


小)私が健土農場に入社した時、会社内に私の同級生がいました。最初はその同級生と比べられました。私は会社内で幅広い分野を担当させられました。最初は付いていくが大変でしたが、幅広い仕事を担当していく事で、計画的に仕事ができるようになりました。会社全体を俯瞰する目を養う事ができ、社員の仕事の段取りも分かるように成長しました。


舟)当時学んだことが、今になって生かされているんですね。


小)そうですね。また、堆肥作りの技術も教えてもらいました。どのように堆肥を切り返ししたらよいのか、水分調整をしたらよいか等です。堆肥作りは空気と菌のバランスが大事です。大体は見た目と匂いで判断するんですよ。


舟)手間のかかるお仕事ですよね。


小)でも、ここが原点なので、最も大切にしている部分であります。安定的な収量、安定した生産物、安定的に植物が育つ土壌の3つを作っています。今年は色々とチャレンジしていきたいと思っています。




新しい事にチャレンジ
管理している田んぼの面積の地図

舟)今年は色々なチャレンジをしていきたいと仰っていましたが、具体的にどのような事にチャレンジしていきたいのですか?


小)今年チャレンジしたい事は「間違えない事」です。


舟)どういうことですか?


小)管理している田んぼの面積が大きいために、おじいちゃんは作業をお願いした田んぼと違う田んぼで作業してしまうんです。作付けごとに肥料成分が違いますし、エリアごとでも変わってきます。色分けした地図を渡しても、田んぼに行くと同じに見えてしまうんです。今は支柱を立てたり、矢印を立てたりしていますが、なかなか難しいです。その他にも作業指示書を作成して、田んぼの場所と肥料の量を具体的に分かりやすく伝えています。


舟)それは分かりやすいですね。


小)去年はそうやりましたが、今年はスマホアプリのアグリノートを使用したいと思っています。


舟)おじいちゃんたちも使うのですか?


小)使いません。スマホがある若い人は使います。紙とスマホのどちらも使っていきます。スマホだとデータが上がってきますので、それを利用していきます。去年よりも品種によって肥料の調整を細かくして、田んぼ毎に実験しようと思っています。


舟)年代に合わせて、うまく両方を利用していくんですね。


小)スマホで計画内容を受け取るのが60歳以下の方々、一緒に作業するのが60代以上の方たちです。かならず2人がセットになって作業してもらうようにしています。60代以上の方たちは経験と知識を持っているんですよ。その知識を60歳以下の世代に与えてもらう体制にしています。


舟)すごくいい考えですね。


小)今スマートアグリに挑戦している大きい農家さんの平均年齢が40代くらいで、私たちは58歳くらいです。最年少が35歳で最年長が70歳です。お互いの長所を生かすことができます。


舟)アグリノートを使用して今後実践したいことは何ですか?


小)一番試したいのは、田んぼ毎に適した肥料を投入できる仕組みをつくることです。これまでは、大きく一形態での生産でしたが、肥料の投入を最適にしていきたいです。昨年度と比べて食味、収量がどうか等ですね。価格の高い肥料を使用してコストをかけた分、収量がどう変わるかを全てのデータを取っていく1年になると思います。去年は試す年、今年は挑戦の年、来年は結果を求める年にする3年計画にしています。私も従業員もまだまだ勉強が足りないので、一緒になってやっていこうと思います。


舟)現在、従業員は何人いるのですか?


小)現在は17人ほどの従業員がいます。やはり、機械があっても人がいなければ作業が進みませんので、人が必要です。ですが、自由な社風があるので、おじいちゃん、おばあちゃんは薬が切れて急に病院に行ったりします。もう、どうぞどうぞという感じです(笑)常時稼働しているのは14、15人ほどです。


舟)そうした一面もあるんですね(笑)




健土農場は大規模化する
大規模農業の強みを話す小野さん

舟)健土農場の特徴として、現在は100ha超の農場を管理している大規模農業だと思いますが、大規模農業の強みはどういう部分ですか?


小)年間を通じて安定配給できるのが、大規模農業ならではの強みですね。品質を落とさずに、お客様の元までロットで届ける事ができるのが弊社の強みです。


舟)角田市内においては、小規模の農家さんの方の割合が多いですよね?


小)現在の農業は、小規模で付加価値をつけていく農家さんと、弊社のように規模拡大をしていく農家さんの2つに経営が分かれています。その中で、弊社は規模拡大をしていかないと、地域を守る事ができません。地域を守るという事を原点に、規模拡大をしています。


舟)主な卸先はどのような所でしょうか?


小)3割は仙台の卸業者、一番多いのが東京の卸業者さんですね。他には新潟の業者にも卸しています。最近は新潟が増えています。


舟)なぜ新潟の方が増えているんですか?


小)新潟の業者が、岐阜県などの西日本エリアに販路を持っているんです。東日本のお米の方が美味しいのかもしれませんし、土質や日照時間の違いもあるのかもしれません。また、卸業者としては、一か所で必要としている量を仕入れできるのがメリットとして挙げられます。弊社だと一回で数量と品質も安定できるので、卸業者も使いやすいんですよね。使った卸業者としても、次のお客様を獲得できるので。


舟)確かに、業者としても年間配給できる部分はメリットですよね。卸し先にアピールするために行っている事はあるんですか?


小)今はそこまではしていません。特別栽培米の認証を取得していまして、それを健土米として売っています。特別栽培米の精米するためのラインを持っている卸業者が少ないので、その部分を付加価値として販売をしていました。また、売り先によっては業務用や学校給食用として一般米とほとんど変わらない価格で卸しています。消費者からの評判も良く、需要があります。今は供給が足りていない状況ですね。




先代の夢を受け継ぐ
代表に就任して4ヶ月ながら様々な挑戦をする小野さん

舟)最後に、健土農場は今年で25年目になります。これからもこの地域を守っていく上での、ビジョンを教えてください。


小)今はそのビジョン作りをやらないといけないと思っていた所です。まだそういった所まで行けていなかったです。先代社長の跡を継いでからまだ4か月で、全然そこまで考える事ができていませんでした。


舟)まだ4か月しか経ってないんですね。


小)取り組みとしては、まずは一昨年に地域内で担い手協議会を作りました。地域の担い手で、地域を守っていくとう形です。これも先代の夢でした。弊社は弊社で経営の限界がありますし、他の農家さんも限界があります。でも、土地はある。そうした時に必要なのが担い手間の連携ですよね。今までは個人、個人の経営でしたが、担い手協議会を作る事により、横のつながりが出来きました。まだ始まったばかりなので、仲間意識という感じではないですが、他の地区まで広げていきたいですね。


舟)確かに、これからの時代に、農業や土地を守っていく上で大切な事ですよね。


小)さらに、5年後、10年後のために、先代社長の夢でもあった別会社の設立を考えています。


舟)先代社長の夢を、小野さんが引き継いでいくんですね。具体的にどのような内容なんですか?


小)やはり、外に売りに行くというのがとても大変なんです。先代は、外に営業するための倉庫が欲しいという事で、土地を求めていました。運送会社や卸業者と連携できれば、この土地に米倉庫を持って来れると。そして、米倉庫を持ってこれれば、生産の特化ができるので、売り先は心配しなくなります。そうなった時に、更なる会社の規模拡大を図っていきたいと思っています。


舟)先代社長は5年後、10年後の先の事を常に見据えてビジョンを形成していたんですね。


小)そして、最後に着地するのは、堆肥です。堆肥の供給をしっかりと安定供給できるようにしたいです。堆肥センターというのを、現在埋め立てしている場所に持っていきたいという想いがあります。ただ、1億、2億円でできるようなものではないので、そこは慎重に進めていく予定です。まずはビジョン形成から始めて、5年後、10年後の農場のあるべき姿を従業員の皆さんに示せたらと思います。


舟)明確なロードマップがあるんですね。


小)自分一人というよりは、先代の夢でもありますので。でも、どのようにやるのかという方向性がまだ分からない部分もあります。どこを最初にするのかですよね。代表取締役になってまだ4か月ですが、一つずつ頑張っていきたいと思います。


舟)本日は長時間、貴重なお話しをありがとうございました!







<後記>


今回、角田健土農場の小野良憲さんに話を伺いました。健土農場は外から見ると、周りに石垣が積んでおり、まるでお城のようです。近くを車で通る方は、どんな会社なのか気になっていたという方もいたのではないでしょうか。インタビュー後、なぜ、周りに石を積んでいるのかと小野さんに伺いました。理由は、石を積むことによって、草刈りの軽減や、残土が流入しないようするためでした。よく、周りからはお城を作るのかと言われたりしますが、そうではなく、全ては理にかなった方法をしているんですと小野さんは話しました。



取材を振り返ってみると、農業生産法人を設立した理由、土づくり、大規模農業を行う理由、今後のビジョン等、全て理にかなった方法を行っていると感じました。さらに、凄いと感じた事が、常に5年後、10年後を見据えた施策をしていた点です。


先代の社長は、農業といえば個人農家、化学肥料農法が一般的な時代に、時代に逆行して、いち早く個から組織の農業にシフトし、自然農法による農業を進めました。その結果、冷害にも負けない農産物を生産し、地域の農業を維持すると共に、雇用も創出していきました。


現在は会社の経営が先代社長から小野さんにバトンタッチされました。小野さんは代表取締役に就任して4か月しか経っていませんが、すでに5年後、10年後のビジョン形成に取り組まれておりました。先代の夢を受け継ぎ、これからもこの地域を守っていくために、小野さんと健土農場の挑戦が続いていきます。




Writer profile 舟山 直道。veeell Inc.マネージャー。 野球とバスケ好きな小ネタ王子。推しメンは角田市出身の楽天イーグルス熊原 健人選手。

写真が趣味で、スポーツ写真や風景写真を撮影してSNSに投稿!写真を日々勉強中。

71回の閲覧
Copyright(C) veeell Inc. All Right Reserved